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介護を考える03.グローバル

持続可能な「私たちの」まちづくり
オランダを手がかりに
堀田聰子(国際医療福祉大学大学院教授)

地域包括ケアをめぐる潮流

 高齢化が進み、疾患構造が変化するなか、虚弱な高齢者、複数の疾患や障害を抱えながら生きる人々の増加を背景として、地域を基盤とする統合ケアは、我が国のみならず、特に1990年代以降の欧米各国におけるヘルスケア・ソーシャルケア改革に共通するチャレンジとなってきた。とりわけ後期高齢期には、複数の疾患を継続的に発症しながら次第に死に至る軌道が知られており、寿命が延びるにつれて、病院で治す医療から地域でケアサイクルを支える医療への転換が求められることになる。
 人口構成の変化は、健康概念にも影響を及ぼす。WHOによれば、かつては病気と認められないことが健康とされていたが、いまは、病気や障害とつきあいながらも、心身の状態に応じて生活の質が最大限に確保された状態へとその定義が変わりつつあり、この底流には1970年代後半以降の人の暮らしを支える活動全般にわたる生活モデル化の進行、すなわちQOL(Quality of Life)の増進を目標として当事者のおかれた状況をエコシステムとしてとらえるという支援観の浸透があるともいわれる。
 こうしたなかで、住み慣れた地域での自立と尊厳ある暮らし、あるいはすべての人に居場所と出番があり、よりよく生ききることができる地域の持続可能なモデルが模索され、各国で「地域包括ケアシステム(※1)」をめぐる移行のムーブメントが起きている。

地域包括ケア先進国オランダにおける「移行」

 オランダは、地域を基盤とするケア(community-based care)と統合ケア(integrated care)という地域包括ケアを成す2つのコンセプトを含むシステム構築を実際に試みた数少ない国といわれている(※2)。1968年に世界で初めて長期ケア保障について普遍的な強制加入の社会保険制度である特別医療費保険制度(AWBZ)を導入、プライマリ・ケアを重視し、保険者機能の強化と管理競争の導入により、効率的な短期医療保険制度運営を行っていることでも知られる。
 その経験からの示唆のひとつは、「地域を基盤とする」統合とコミュニティデザインである。長期ケアの地域における再組織化、そのための自治体機能の強化は諸外国共通の潮流とされているが、オランダでは20世紀初頭から、とりわけ1980年代以降、公衆衛生、住宅政策と都市・空間計画、福祉、社会生活支援と段階的に地方分権を進め、各領域のステークホルダー間の関係づくりを行いながら政策単位の平仄を合わせてきた。
 特に、社会支援法の施行(2007年)以来、自立生活と社会参画を促す「社会生活支援」を新しい地方自治体の任務として確立するとともに、住宅政策に次いで空間計画についても大幅に地方に権限を委譲し、空間政策・空間戦略という観点からも関係団体や住民との対話に基づく「ローカルで個別仕立ての解決策」を推進していることは興味深い。
 社会支援法では、地方自治体の「実行領域」を定め、実際に各領域でどのような目標を設定して何に取り組むかは、各自治体の裁量となる。定期的に社会生活支援に関する政策大綱を含む社会生活支援計画を策定することになっており、ステークホルダーの関与が重視されていることもあり、ほとんどの地方自治体が患者・利用者・住民団体、住宅、福祉、介護関係機関のみならず、多様な関係者を政策形成や実施過程に包摂している。
 欧州諸国では、都市再開発政策のなかで、地域住民が抱える空間的・社会的・経済的な問題を棚卸しして、それを包含する方策を展開する「統合的アプローチ」と呼ばれる手法が知られており、オランダでは市と住宅協会が重要な役割を果たす。古くから発達してきた住宅協会は、1990年代に財政面での自立性を高め、国の監督のもと、住宅法の法的枠組みのなかで、定められた社会的責任を果たす社会的企業として進化をみせている。ここでもやはり「実行領域」を設定し、その方向性やゴール、推進方法についてはそれぞれに任されている。1990年代後半には、新たな実行領域として「近隣・コミュニティにおけるQOLの向上」、すなわち地域のQOLというアイデアが追加されたのも注目に値する。
 ただし、オランダでのAging in place(住み慣れた土地で最期まで自分らしく)の実現に向けた道のりもまた、決して平坦ではなく、今もなお大きな移行・転換期にある。
 特に1990年代は暗黒の時代ともいわれ、地域に根ざしたケアが市場志向への転換で大きく変質し、「できるだけ多くのケアを教育レベルの低いワーカーに提供させれば儲かる」という誤ったインセンティブに基づくビジネスベースのケア提供が優勢となった。合併・大規模化の失敗は多くの経営破綻を招き、利用者は細切れで継続性なく必要以上に提供されるケアへの不満を、専門職は組織のヒエラルキーに飲み込まれ利用者に向き合えず自律性とプロフェッショナリズムを欠く仕事への不満を高めた。
 そこで特別医療費保険(AWBZ)創設から30年を経て、制度のボトルネック見極めのため、まず地域レベルで患者(利用者)、ケア判定機関、ケア提供者、保険会社等が議論、さらに制度運営機関、地方自治体・州・国の関係者で意見交換が重ねられた。このプロセスを通じて課題と改革の方向性が共有され、AWBZの基本方針は維持しつつ、提供者主導から再び患者(利用者)中心・住民本位のケアに向けて関係者の責任と権限の整理が行われた。
 それを踏まえた2000年代の改革の基軸のひとつは、機能重視への転換である。長期ケアにおける機能アプローチや慢性疾患ケアグループへの成果に応じた包括払いにみられるような、サービス提供主体の種別や形態、領域を問わず、機能に着目した判定や支払いは、病院や施設内の資源の地域展開や地域支援機能の強化を含め、人や組織が持つ機能提供の柔軟性を高め、統合を促すものとして参考になる。

ビュートゾルフ:在宅ケアのルネサンス

 地域看護師が起業して急速に広がり、いまや世界的にも統合ケアの成功事例とみなされる在宅ケア組織BUURTZORG(ビュートゾルフ財団)が生まれたのも2000年代のことである。利用者満足度は全国の在宅ケア組織のなかでトップ、スタッフ満足度は全産業トップで、利用者あたりのコストは他の在宅ケア組織の約半分、現在、オランダのすべての産業を通じて最も成長している事業者といわれる。創業間もないころから注目を集め、政府文書にも「ケアの量でなく成果を重視し、よりよいケアをより安く提供するビュートゾルフモデルのさらなる推進」が盛り込まれるなど、近年のオランダにおけるケア関連政策に大きな影響を与えている。
 ビュートゾルフは2007年に1チーム4人で始まり、2015年現在、九州ほどの広さのオランダ全土で約800チーム、看護師・介護士・リハ職ら9000人が活躍、利用者は約7万人にのぼる。「患者の力を第一に、患者とそのネットワークとの協働により最良の解決策を見いだす。そのために各チームがすべてのプロセスに責任を持って専門性の高いケアを提供する」というミッションに基づき(図1)、最大12人のフラットな自律型チームがあらゆるタイプの患者にトータルケアを提供、地域の実態に即して多彩な予防プロジェクトも展開する。専門職とともに進化するICT(Information and Communication Technology)、45人の小さなバックオフィスとコーチが、ケアだけでなく採用や教育、財務等にも裁量を持つチームの実践と継続的なイノベーションを支える。

注:ビュートゾルフについては、『訪問看護と介護』(医学書院)
2014年6月号の特集「Buurtzorgとの邂逅― 何を学び、どう活かすのか」を参照のこと。

 創業者で地域看護師のヨス・デ・ブロックさんは、ビュートゾルフの根底には「自分の人生のなかで起きるいろいろなことについて自分で判断して決定できれば、自分の人生に自ら影響を与えられるし、より幸せな人生を送ることができる」という信念があるという。専門職自身が自らの専門性が発揮される組織とビジネスモデルをつくったことで、ケアをとりまくシステムのなかで失われてきたさまざまな「人間的な」要素やかかわりが再生され、専門職と患者が立場を超えて人としてのキャパシティを引き出しあい、いわば人間復興を通じて担い手やコストの面でも持続可能性を高めることにもつながっており、ケアの領域のみならず他セクターにも示唆を与えている。
 オランダでは、2000年代後半以降、専門職・事業者の裁量を高め、規制緩和や事務の簡素化を推進、質と成果に基づく評価に向けた転換が図られてきているが、その背景としてもビュートゾルフの躍進は無視できない。患者や家族、そして専門職からも支持される質の高いケアをより安く実現してきた実績をもとに、プロダクションからソリューションへと価値を転換させつつあるわけだ。
 これには徹底したアカウンタビリティも欠かせない。ビュートゾルフは、ICTを業務管理とナレッジマネジメントの「場(ba)」としてのみならず、アウトカム、生産性、コストを「見える化」、継続的な質と効率の向上のために活用するとともに、説明責任を果たし、信頼と指示を集めてきたのだ。

慢性疾患ケアモデル:患者ー専門職関係を超えて

 冒頭で述べたとおり、人口構成の高齢化と医療の進展は疾患構造の変化をもたらし、このことはしばしば地域包括ケアシステム構築の背景として語られる。病気や障害とともに暮らす人々を支えるモデルとして1990年代後半以降に開発が重ねられた慢性疾患ケアモデル(図2)は、integrated careの主流とみなされ、WHOによっても普及がはかられている。ここで、アウトカム向上を支えるのは、「活性化されたコミュニティ」における「情報・スキルを得て活性化された患者」と「先を見越して準備ができた多職種チーム」の「生産的相互関係」とされる。

注:出典は※2図表2-1を参照のこと。
地域包括ケア研究会における議論を筆者が加筆(下線部)。

 急性期医療における患者像は、専門職の指示に従い援助を受け入れる専門職主導の治療の「受け手」として描かれてきたが、QOLを引き上げることを目標とすれば、客観的な目的のために専門職が患者になにかを施すという形にはなりえない。どこでどんな暮らしを送り、どんな最終章を迎えたいのか、すべての住民が、自らの人生の「主体」、自らの心身の専門家(素人専門家)として考え、互いの経験から学び、支えあう……地域包括ケアは、患者と専門職といった立場を越えて、「ともに同じまちで暮らす生活者」として、「よりよい生活のなかでの経験」を「ともに創り出して」いけるまちづくりなのである。
 こうしたなか、専門職にも急性期医療とは異なる以下のようなコンピテンスが必要とされ(※3)、前述のビュートゾルフはそれをよく体現しているともいわれている。
①患者中心ケア(効果的なコミュニケーション、健康行動変容のサポート、セルフマネジメント支援、プロアクティブアプローチ) ②協働(患者と、他の提供者と、コミュニティと) ③質向上(プロセス・成果の測定、学習→変化、エビデンスを実践に反映) ④ICT(患者の登録、協働相手とのコミュニケーション、コンピュータ技術の活用) ⑤公衆衛生視点(地域住民を基盤とするケア、予防重視とケアの連続性を通貫する働き、プライマリ・ケア主導のシステム)

わがまちの「玉ねぎ」を育む

 2015年春からわが国の全国各地の実践者らとビュートゾルフのナレッジを共有し、各地域の状況に応じて、生涯を通じた住民本位の持続可能な地域ケアの多様なモデルとその中核となる多主体多職種協働ケアステーションを実証的に開発するプロジェクトを開始した。「地域のQOL」をどう考えるのか、どんな「玉ねぎ」を育んでいけばよいのか、各地域でさまざまな主体が領域・世代を超えて対話し、自分の、互いの、地域のハピネスを追求するゆるやかな目標共同体としてのチームスピリットを高めつつある。
 それぞれの地域の物語を紡ぎながら、理念や目的を共有する主体が出会い、成功・失敗事例を学びあうことで、より人間的なケアとまちづくりを手がかりに持続可能な社会への移行を促す民主的なイノベーションは、今後も国境を越えて静かに広がってゆくだろう。

【参考文献】
※1 地域包括ケア研究会『地域包括ケアシステムを構築するための制度論等に関する調査研究事業報告書』(2014)
※2 堀田聰子『オランダの地域包括ケア』労働政策研究報告書No.167(2014)
※3 WHO"Preparing a health care workforce for the 21st century: the challenge of chronic conditions"(2005)

堀田聰子(ほった・さとこ)1976年生まれ。東京大学社会科学研究所特任准教授、ユトレヒト大学客員教授等を経て2015年4月より国際医療福祉大学大学院教授。専門はケア人材政策、人的資源管理。社会保障審議会介護給付費分科会及び福祉部会、地域包括ケア研究会等において委員を務める。「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2015」リーダー部門入賞。