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介護を考える08.コミュニケーション

柔軟であること、丁寧であること
安藤桃子(映画監督)

自らの介護体験から着想を得た小説を映画化した『0・5ミリ』で高い評価を得た安藤桃子さん。作品では、ある事故に巻き込まれたことで全てを失った介護ヘルパーの主人公・サワが、ワケありの老人を見つけては自ら介護を買って出る“押しかけヘルパー”として生きていく姿を描いている。作品の背後にある、介護体験を通じて感じた安藤さんの思いとはーー。

 映画を作るときのテーマは、日々暮らしている中で湧き上がってくる、自分でコントロールが利かないくらいに収まりきらない感情と向き合っていくことで明確になっていきます。『0・5ミリ』の場合も、以前、祖母の介護を8年ほど在宅でしていた経験があり、そのとき起きた家族の問題を表現しようとしたときに、介護という大きなテーマが浮かびあがってきました。
 介護というものは、介護する家族の側に思いがありすぎることでやりにくい場合もあって、かえって他人である介護職の方だからこその役割は大いにあると思います。逆に、その人の生い立ちから食の好み、親子や夫婦の関係といった、家族ごとに違う状況が複雑に絡み合うので、他人が介入していくことの難しさもあります。そういう意味で、介護は特に繊細かつ柔軟に人と向き合わなくてはいけない仕事だと思います。
 介護というと年上の人に接することも多いと思うのですが、今の若い世代や私の世代、もう少し上の世代までが、どれだけ目上の人たちに対して敬意の念を表すことができるかが大切になると思います。コミュニケーションというものは、相手に興味を持たなければ深まっていきません。高齢者の方と接するときも、相手に興味を持つことがまず第一。当たり前のことなんですが、介護としてアウトソーシングされた瞬間に見落とされてしまいがちな点でもある気がします。
 『0・5ミリ』の中では、お年寄りが戦争体験を語るシーンがあります。あれは、取材のために老人ホームで何日間か過ごしたときに出会った方が、戦争体験者だったことから生まれました。その方は私をインタビュアーだと思ったのか、自然な流れで会話が始まり、作品ではその会話をそのまま使いました。

 介護保険制度ができて15年が経ちますが、システムだけの上に成り立つような介護というのは、本来ならば存在しないと思っています。だったらロボットでいいじゃないかという話になるでしょう。私たち家族が直面した問題もそこで、介護ヘルパーさんに「一緒にご飯食べよう」と誘っても、「規則なので食べられません」とか、お礼のつもりでちょっとしたものを贈りたくても「もらえません」と言われてしまう。でも、人と人のコミュニケーションで、しかも生身の人の家に入り込んでいたら、仲良くもなるし、そういうやりとりも当然ありますよね。でもそれを頑なに拒否されると、逆にこちらがストレスを感じてしまいます。
 特に我が家では洗濯物にまつわる問題がありました。母は介護もしながら仕事や家事を一切合切やらなければいけなくて、それが大変だからヘルパーさんを頼んでるんですが、介護対象者である祖母以外の洗濯物は洗えないと言うんです。そうすると洗濯機を2回に分けて回すことになり、結局、何の助けにもならないわけです。些細なことのように感じられますが、実は一事が万事、それが全てを象徴しているんですよ。
 家族というものは一体なのですから、介護される側と同時に、介護する側に対するケアというのも必要なんですね。ヘルパーさんは介護側の家族たちとコミュニケーションをとったり、悩みや声を拾う体制を作っていかないと、結局はストレスにつながり、見えないところで虐待などのさまざまな問題が起きてしまう。在宅介護のヘルパーさんがせっかく外から家庭に入り込むことができるのであれば、介護の1パートを担うのではなく、全体像をとらえた環境づくりをしていくべきではないかと思います。

 翻って、介護施設のあり方の理想のカタチとしては、私は幼稚園や保育園と老人ホームが併設されるのがいいなと思っています。それぞれの世代の求めてることは何かを考えたら分かりやすいと思いますが、小さい子どもはこれからものごとをどんどん吸収して成長していきたいから、学びを求めますよね。だからあんなにキョロキョロして、何でも吸収しようとする目の輝きがあるんだと思います。
 一方のお年寄りたちは、晩年を迎えてゆったりした時間が欲しいのかといったら、必ずしもそうではないと思うんです。やっぱりみんな最期の日まで、誰かに必要とされたくて生きているわけでしょう。特に痛切に感じているのが、施設にいるお年寄りだと思います。お年寄りから真摯な気持ちでなにか教わりたい、受け継ぎたいという気持ちを我々が持たなければいけないし、持つことで豊かな世の中になると思うんですね。だから、子どもとお年寄りは、お互いを補うようにぴったり合うんですよ。

 介護に限りませんが、どんな職業も、その職に就いている人が誇りを感じない限り継続できないと思います。介護職は人に関わる職業だから、特にその仕事への矜持というものが重要になってくるのではないかと思います。例えば、一口に報酬と言っても、自分の価値を示してくれるものはお金だけじゃない。誇りという形の報酬を与えられる環境を整えることも大切です。
 映画でもエンターテインメントを追求した大がかりな作品もあれば、私たちのようにインディペンデントで制作される作品もあります。いずれにせよ、その中でキーワードとして現れてくるのは、「丁寧さ」。いかに丁寧に仕事ができるかです。経験からも実感しますが、丁寧に作られたものというのは、絶対に人に伝わるし、それに勝るものはないと思います。介護という仕事においても、システムで解決するだけではなく、結果的に人と人が丁寧に関わることがますます求められていくはずです。

安藤桃子(あんどう・ももこ)1982年生まれ。ロンドン大学芸術学部卒業後、ニューヨークで映画制作を学ぶ。2010年、監督・脚本を務めたデビュー作『カケラ』が国内外で高い評価を得る。2014年、初の書き下ろし長編小説『0・5ミリ』(幻冬舎)を自ら監督・脚本を務めた同名の映画が公開。第39回報知映画賞作品賞、第69 回毎日映画コンクール脚本賞、第36回ヨコハマ映画祭監督賞、第24回日本映画批評家大賞作品賞など多数受賞。第18回上海国際映画祭では、アジア新人賞最優秀監督賞、優秀作品賞、優秀脚本賞の3部門同時受賞を果たした。